平成27年4月26日(日)。
思えばもう4年前になるのだが、原作第8回「19年5月」ですずさんが作っている料理をひととおり自分たちで再現してみようということになった。すずさんは野草、というより家の周りにふつうに生えている雑草を料理の材料に使ってしまっているのだが、これを画面に再現するためには自分たちでも作ってみるしかないと思ったのだった。
●スギナ入り甘藷もち
●ハコベと馬鈴薯のおかゆ
●大根とカタバミの和え物
●大根の皮とタンポポの卯の花
●梅干の種を使ったイワシの煮付け煮
●スミレのミソ汁
●楠公飯
この実験試作のときは、青梅の奥のほうのバーベキュー場でやった。時期としては原作の「5月」より前の4月24日だったのだが、それより遅くなると春先の野の草がなくなってしまったり、硬すぎて食べにくくなってしまうのじゃないかと思ったからだった。
このあと秋には、やはりすずさんが作る、落ち葉をうどんのゆで汁でこねた代用炭団の試作をやっている。落ち葉をまずかまどの中で炭っぽく焦がさなくてはならないので、自分の家から比較的近い所沢下山口の「古民家農園コロット」という場所を借りてやってみた。ここは囲炉裏や縁側もある古民家を貸切で使える。
なんだかそういうことがひじょうに楽しかったので、以前からやっていた「マイマイ新子探検隊」のノリでお客さんたちと一緒にやってみよう、ということになったのが「すずさんの食卓」だった。最初は5月19日にやってみたのだが、スミレもハコベも完全にとうが立っていたり、枯れかけていたりして、ちょっと遅すぎた。なので、翌年の2回目は4月26日に行った。ゴールデンウィーク真っ只中を避けようと思うと、そういう日取りになる。どっちにしても、年にワンシーズンしかできない行事ではある。
2014年4月26日会場は落ち葉炭団作りで使わせてもらったコロットが心地よい雰囲気だったので、そこでほぼ固定している。むしろ、最近はここの管理人さんに覚えられてしまっていて、
「ここの利用者の方にはこうの史代さんファンの方、多いんですよ」
とか、
「うちの息子もクラウドファンディングやったっていってました」
などといっていただけるようになっている。
で、今年も第3回目を4月26日に行った。参加総数、うちのスタッフも含め46名。
午前10時過ぎから作り始めて、食べ始められるようになるのが12時半過ぎからなので、なんとなく当時の主婦が家事労働だけやっていると一日終わってしまう感じはわかるような気がする。
原作第8回「19年5月」に出てくるものは基本的には全部作ることにしているのだが、メニューには毎回ちょっとした飛び入りで作るものも混ぜていて、今回の場合は、戦時代用食の代表選手であるコウリャン、原作「波のうさぎ」ですずさんが学校に持ってゆく弁当の江波巻きと、第19回「19年11月」のねぎの代わりに刻んだみかんの皮を入れたうどんなど。
これは回数を重ねるたびに思うのだが、なぜか出来上がる料理がだんだんと「食えるモノ」になってきてしまっている。ある意味何度も食べて慣れてきてしまったために、こちらの心持として意外性がなくなってきているのかもしれない、とも思うのだが、ひょっとしたらすずさんの「家族にちょっとでもおいしく食べてもらいたい」と思う心持ちが現れてきているのかも、とも思う。
すずさんが作っている料理レシピは、当時の家庭雑誌などに紹介されていたものとは違って、すずさんがオリジナルに考案したメニューばかりなのだ。
それにしても気がつけば、イワシと、イワシの煮汁をだしに使ったスミレのミソ汁、魚を粉に挽いてだしにしたうどんのおつゆくらいがせいぜい動物性蛋白で、ほかは糖質と草ばっかりだ。
糖質制限ダイエットの逆をやっているのだから、戦時中の写真でみると当時の若い娘さんたちが意外にコロコロとふくよかなのもよくわかるような気がする。
それにしても、この唯一の動物性蛋白である魚の味を口にするときの幸福感ったらない。そういうことを実感できるのがこの行事のよいところだ。
だがしかし戦時中には、いろんな食べ物を増量させるために、やたらと魚粉と米ぬかが使われている。だから、当時の人にしてみればほんとうはうんざりする味なのかもしれない。
そもそも史実の昭和19年5月には、すでに配給米に大豆糟が混ざっている地域も現れていた。米の配給量は、一日あたりの消費カロリーを基準にして定められているのだが、この基準に満たない量しか米を配給できないときには、同じカロリーになるように混ぜものがされてきてしまう。大豆糟というのは、満州産の大豆から油を搾ったあとのカスで、これも満州から運ばれてくる。腹が弱い人は下してしまうようなものだったらしい。戦争後半の海軍工廠の昼ご飯とかには、脱脂大豆糟混ぜ飯がひんぱんに登場している。
この脱脂大豆糟もそのうちには口にしてみたいと思っている。味わえるものなのならば、とことん味わってみたい、と思う。