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片渕須直監督コラム「すずさんの日々とともに」

   3月になってしまった・・・・・・。
   ・・・・・・。
   ・・・・・・。

   ときどきラッシュ試写があり、その都度とても地味な映像が何カットか流されて、「これでよいのだろうか」という気持ちに駆られる。もちろん、作品の主旨からいえばそれでよいのだし、映像にまで到達したのが全体の2割程度なので(仕掛かりはその倍くらいあるにはある)「お楽しみはまだまだこれからだ」というところなのだが、作り始める前はあんなに高らかに自信満々なことをいっていた自分が、現場作業に没頭する中では不安感にうずもれてしまっている。
   ただ、もしここで不安の高まりを感じたりしないようならば演出家失格なのだろうとも思う。
「これでいいのか」「これでいいのか」
   と、繰り返し思いながらあがくのがこの道なのだろうと思う。

   去年の7月がもう7ヶ月以上前のことになってしまっている。7月には映画冒頭部分を東京、大阪、広島のクラウドファンディングのミーティングなどで上映した。もうずいぶんと遠く感じられる。その際、戦前の広島中島本町の町並みを再現したシーンを広島で上映したのは、実際にその町に住んでいた方々からたくさんのお話を聞かせていただいていたので、うかがったことから構成した映像を一日でも早く見ていただきたい、という思いからだった。
   ここへ来て、再び広島方面と連絡を取ることが増えて来ている。今度は映画終盤に再び登場する中島本町の状況を何か教えていただけないだろうか、ということからだ。中島本町は今は平和記念公園になって、民家は建っていないのだが、戦後すぐにはバラックを構えて住んでいた人たちがいたはずだ。自分でも写真を探してみたのだが、実際にそこに住んでいた人を身近に知っていた方からの聞き取りも送っていただくことができた。やはり初期にはバラックの軒数もそんなに多くなく、ポツン、ポツンという感じだったようで、ようやく自分の手元の史料から探し当てた写真と見比べてみると、広大な廃墟の中にそうしてまるで孤立したように住むのは、そこが生まれ育った町のあった土地だとしても、なんだか怖いような気がしてきてしまうのだった。
   作業はもうそんなような場面にまで及んでいる。
   そうして仕掛け始めた画面作りが、やがてラッシュ試写に至れるまでには、たくさんの時間が必要になる。冒頭と結末の中間にはまだ、まるで手付かずの空白もちらほら残っていることでもあるし。
   などと書いていたら、撮出ししなければならないカットが一山手元に届いた。カットナンバー600番台。まずはこれを作り上げてしまわなくては。

2016年3月4日