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片渕須直監督コラム「すずさんの日々とともに」

   こちらは制作作業がたけなわも度を越して、まったくもってかけらほどの寸暇もないような状態。
   物騒な空襲などがまだあまり身近に迫ってきていなかった19年5月のすずさんの周辺を、当時のいろいろな人の日記から眺めてみたい。

   昭和19年5月
1日(月)
「だいぶ暑くなった」

3日(水)
「内務省、呉市を『重要防空都市』に指定 、『疎開地域指定』を告示。呉市に移転斡旋所、警察疎開相談所、市疎開指導所、工事事務所開設、疎開事務開始」

4日(木)
「青葉濃い。夏蜜柑出ている」

6日
「今日は何とも云えぬ良い月夜だ。十五夜に近づいて居るらしい」

7日(日)
「呉警防空砲台試射、研究射撃」「ぼちぼち冬物の整理をし ツギ当等して 箪笥の引き出しにしまう」

8日(月)
「藤の花がとても綺麗。れんげ、キンポーゲ、蛙のこえ、山吹の黄色又格別」

11日(木)
「雨が降り 大分土地が湿ったので、南京七、八本とトマト七、八本を植えた今日 浜の畠で実枝豆を初めて取って来た。大分良く作れており 嬉しく思った。小麦も 思いもよらず良く出来て居る」

12日(金)
「午前四時にははや夜が明けて来かけた。本当に夜が短くなったと思う。お昼よりうづら豆の中かぜをする。今朝、小井でナスビの苗をわけて頂き、家の前の畠に三十本ばかり植えた」「今晩も蛙が鳴く」「佐賀市が市民に布製の身元票携帯義務」

13日(土)
「暑い」
「今日は随分日が良く照り、暑い位だった。ミカンの木も大変たくさん花のつぼみが出来て居る。花が開けば良い香りがすることだろう」

16日(火)
「相変ず舗装道路は暑い」
「此の頃は 日の光も大分暑い位に感じて来た。むし暑い」「呉方面防空砲台第3回昼間教練射撃」
「呉基地に634空瑞雲隊訓練基地設営完成」

18日(木)
「小樽市で警防・町内会関係に空襲時身元票整備について北海道庁より通牒あったことを通報」

20日(土)
「一日中うったうしい天気だ。夕方より又雨日和となる。ヘチマの苗を頂き 七本植える。午後より畠へ行き草引きやみかん取りをする。夜はずっと雨が降りつづく様だ」

   そのほか、同じ月の出来事。

「呉市よりの第一次人員疎開、12000人」
「5月、すでに配給米に大豆糟が混ざっている地域あり、
腸が弱い者は下痢を起こす」

   大豆糟とは、満州で作られた油採取用の大豆を搾った残り物で、これも大陸から船で日本に運んで食料にしていた。

   まだマリアナ諸島が陥落もしていないこの時期、すでに本気で重要都市から人口疎開が始められており、空襲対策の身許票が要請されている。
そうした空気の中で、市井の人の日記に記されたただのお天気についての話が妙に輝いて見える。

   すずさんが野草を摘んで、これでおいしい料理を作れないかと思い立ったのがこの月だ。

2016年5月22日