タジキスタンという国のことを知ってますか?
あるテレビ番組で、日本人が一番行ったことのない国だか知らない国だかのベスト3に入ったとか? 何でも日本人の一万人に三人の比率でしか訪れたことがない国だという。確かにパキスタン、アフガニスタン、スタンガン等は聞いたことはあるが、タジキスタン? 聞いたこともないタジキスタンに、国際交流基金文化芸術交流海外派遣事業のメンバーに選ばれ、3月9日から14日まで行って来ました。
国際交流基金はこれで、ブダペスト、ルーマニア、厳冬のロシアに続いて4回目だと思う。どう考えても他のどなたかが断った後のご指名のような気がする。もしかして辺境担当と登録されてる? ま、それも光栄で嬉しい限りなのだ……。
さて、タジキスタンである。確かに情報が少ない。あの「地球の歩きかた」でさえ中央アジア編に僅か7ページしかサカレてないのだ。国土の97%が山岳地帯で、旧ロシアから独立後も激しい内戦をくぐり抜けながら、今は少ない平地にひっそり平和に暮らしているらしい。
一週間前アオイスタジオの階段から転げ落ちたこともあって、「やめとけ」と皆に言われたが、持ち前のやぶれかぶれ精神の出たトコ勝負で、通訳兼助手兼用心棒のナベ君と飛行機に飛び乗った。
まずフライト12時間で庄野真代、飛んでイスタンブール。空港内でまずは有名なのびーるトルコアイス。乗り換えて地球儀的には戻ること5時間で、何やら北海道のどこかの町に響きが似てるタジキスタンの首都ドゥシャンベ。直行便ができたら、多分7時間で済むところを17時間の艱難辛苦の旅である。
ドゥシャンベの空港を降りて、先ず感じたのはデジャブである。初めて来た所のはずなのに「この景色は前に見ている」だった。
私は確か1979年頃、NHKで『マルコポーロの冒険』というタイトルの番組をやった。青年マルコポーロが父と叔父と、イタリアから中国までを旅する紀行のアニメパートをやった。当時はシルクロードブームのずっと以前でロケハンなどは問題外、資料がほとんど手に入らず悪戦苦闘したことを覚えてる。
シルクロードは緑に覆われた桃源郷として描くか砂塵に塗れた寂れた町なのか、散々迷った挙句、白っぽい緑(?)に仕上げたような気がする。今、目の前にそれがある。30年ぶりの再会。木立は冬枯れで灰色だっただけなのだが……。
私は初めての町でまず、市場と便所に行く。市場はその土地土地での生活、食い物が一発で解る。便所は犬の臭い付けと同じである。まずは外務省の船入さんの案内でバザールに向かう。ありとあらゆる種類の豆。ざくろ、唐辛子、砂糖の固まり……
次はリクエストしておいた温泉である。タジキスタンには温泉があるのだ! 町中から車で渓谷沿いに一時間も走ると中腹ぐらいの場所に温泉保養地であった。完全予約制で三助さん(?)がでっかいパンツをくれる。泉質は弱酸性というか、日本の温泉と全くおんなじかな?
何でもパミール高原は露天風呂もあるそうな、何が何でも来年もくるっきゃないか?!
食事はやっぱタジク料理。大使館担当書記官小松さんと、日本育ちで日本語ペラペラの通訳ニルファールさんの案内で、タジクの有名店「ボジャード」でラフマン(うどん)とシュハロー(炊き込みごはんのようなチャーハンのような)を食う。少しごちゃごちゃした田舎料理というところで、全く抵抗なく平らげる。
さて、目的はバザールでも温泉でも食事でもなく、使命は日本のアニメ文化の紹介と交流である。日本のアニメがタジクの人々にどれだけ認識されてるのだろうか? DVD屋を覗いてみる。多分ロシア語表記が多い。かなりコアな作品がずらり。
そしてタジク芸術大学での交流会。恐縮にも大使や学長にも出張ってもらって、ご挨拶をいただく。ちいさな教室だったが、日本人72才の現役は珍しいのか超満員の盛況。「ナルト」「ワンピース」はもちろんだが、「モンスター」「デスノート」「ミレニアムアクトレス」「パプリカ」というタイトルがポンポン飛び出る。驚くほどアニメに詳しい(敢えてオタクとは言いますまい)外交官堀江君が言葉足らずの丸山と学生さんの間を取り持っていく。
あっという間の時間は過ぎ。彼らの(先生も質問に立ったり)日本のアニメに対する興味に少しでも答えられたのならいいのだが……。
翌日も日本文化に興味を持つタジクの若者たちとの交流会。日本のアニメはロシアと中国の文化を押しのける勢いで、タジクの若者の心に食い込んでいるのを実感する。
最後に記念撮影。
帰りは再びイスタンブールに戻り、トランジェットの間にトルコ式マッサージをやったらーー岡本喜八「独立愚連隊」に出てくるようななたたずまいなので、ちょっとは期待したら
これが大変。クマのようなおっさんが出てきて、引っ張ったり叩いたり、殆ど拷問のような責め苦にあい、癒やすどころか逆にヘトヘトに疲れて、泣き泣き帰国の途へ。お疲れ様。タジクの外務省の皆様、何よりタジクの若者たち。ありがとう。